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3万5千海里を越えて 1

ソロモン諸島、それは日本から遥か南、メラネシアにある島々である。オーストラリア大陸に程近く、どれも鬱蒼としたジャングルに覆われている。(1942年)、第二次大戦時、日本とアメリカは、このソロモン諸島の島の1つ、ガダルカナル島を巡って、陸海空で激しい戦闘を繰り広げていた。そして、ソロモン諸島の近海では、日本の潜水艦戦隊がアメリカ艦隊の動向を探る為、哨戒活動をしていた。その内の1隻が伊19である。


(1942年9月14日朝10時)、伊19は潜航哨戒中、前方に集団機関音を探知した。1時間後、潜望鏡を上げると、15キロの距離を遠ざかってゆくアメリカ艦隊を発見する。追跡すること33分、アメリカ艦隊は変針してきて、伊19の攻撃可能な位置まで前進して来る。それを受け直ちに攻撃準備、魚雷発射の調定がなされる。 その時、アメリカ艦隊はさらに変針、自ら絶好の射線に入ってきた。再度調定、方位右50度、敵速12ノット、距離900メートル、艦長の号令一下、伊19号は6発の魚雷を次々に発射した。そして、艦は直ちに急速潜航、深度80メートルまで潜って敵の反撃に備える。


雷撃から6分後、敵艦からの爆雷攻撃が始まる。伊19を覆い尽くす様に爆発音が響き渡り、艦は激しく振動する。この攻撃は5時間半にも及んだが、幸い至近弾はなく、伊19は無事、生還して魚雷4発の命中を報告する。 伊19が爆雷攻撃を受けていた最中、その必殺の魚雷はアメリカ艦隊を次々に貫いていた。空母ワスプには魚雷3発が命中して、消火不能の大火災を発生させ、戦艦ノースカロライナにも魚雷1発が命中し、艦橋よりも高く水柱が立ち昇り、更にもう1発は駆逐艦オブライエンに命中し、小さな艦は水柱に飲み込まれた。実際には、魚雷5発が命中していた。


この伊19が挙げた戦果は空母1隻撃沈、戦艦1隻中破、駆逐艦1隻撃沈というものであり、1回の雷撃としては、世界の潜水艦史上に残る大戦果であった。この戦果は偶然の要素もあったが、伊19を指揮していた艦長の冷静な判断力によるところも大きかった。その艦長の名は木梨鷹一、この戦果をもって日本有数の潜水艦長として名を馳せる事になる。そして、木梨は11月1日をもって中佐に進級する。


昭和18年10月10日で木梨は伊29の艦長に拝命され、ある重大な任務を言い渡された。


その任務とは日本の呉を出航し、シンガポールでタングステン等の戦略物資を積み込み、遥々、フランスブレストにあるドイツ潜水艦基地を目指し、そこでレーダー等の新兵器を積み込み、日本まで帰還するというものであった。その距離なんと3万5千海里(約6万キロメートル)、しかも、その航路のほとんどの海域が、連合軍の制海権下にあった。航海中、艦が重大な損傷を受けたとしても、誰も助ける事は出来ない。しかも、長期に渡って、乗員は狭い不潔な空間で耐え忍ばねばならない。なんとも過酷な航海であった。


1943年に入ると、日本は消耗戦の末、ガダルカナル島から撤退、ドイツもスターリングラード戦でソ連に敗れるなど、枢軸国側の戦況は急速に悪化していった。ドイツと日本は戦局を挽回すべく、あらゆる手段を模索する。当時、ドイツでは希少金属や生ゴムを始めとする戦略物資が不足しており、兵器の生産にも支障が出ていた。だが、当時、日本が占領していた東南アジアには、ドイツが欲する戦略物資が存在していた。ドイツはそこに目を付け、日本側に戦略物資の提供を求め、その見返りとして、ドイツの進んだ兵器技術を提供したいと提案してきた。


当時、日本はレーダーを始めとする電子兵器の遅れもあって、アメリカ軍に苦戦していた。そこで、日本側もこの提案に乗り、お互いに不足するものを補って、協力し合う運びとなった。しかし、航空機による両国の往復は、まず不可能であった。そこで、隠密裏に海中を進む潜水艦によって、通信しようと試みたのである。


現在の原子力潜水艦は、水中で高速を発揮する事が可能で、水中で長期間、活動する事も可能である。しかし、第二次大戦中の大部分の潜水艦は、航行の大部分を水上で活動する事を前提として設計されており、水中では短時間、短距離しか活動出来なかった。しかも水中では低速しか発揮出来ず、一旦、敵艦のソナーに捉えられれば、そこから逃れるのは困難だった。


狭く密閉された潜水艦での任務は現在においても過酷であるが、当時の潜水艦はさらに居住性が劣悪であり、艦内は湿気だらけで洗濯物も乾かせず、また燃料・排気・カビ・体臭などの臭気が充満している。真水は貴重なので入浴は制限され、日光にもろくに当たれない。このような環境で毎日、単調な任務が続くのである。第二次大戦時、勇名を馳せたUボート乗員でさえ、こうした悪環境で戦闘状態が長引くと、精神の均衡を失う者が現れた。重症になると、ただ開放されたい一心で浮上用弁を勝手に操作したり、機器を叩き壊したりするようになる。こうなると監視付きで、監禁する必要が出てくるのである。


●伊号第29潜水艦の性能要目、艦型は巡潜乙 

基準排水量2,198トン、水中排水量3,654トン、

全長108メートル 、全幅9、3メートル

水上では最大23.8ノット、水中では8ノットの速力を発揮

航続距離は、水上速力16ノットで14,000海里、水中速力3ノットで96海里

兵装は、艦首に53センチ魚雷発射管6門装備、14センチ単装砲1門、25ミリ連装機銃1基

安全潜航深度100メートル


諸外国の潜水艦と比べ、航続距離が長く大型で航洋性に優れている反面、その大型さが災いして敵に発見されやすく、量産が難しいという欠点もある。


木梨艦長と乗員達はこの潜水艦に乗り組み、フランスロリアンを目指す事になる。



後編に続く・・・



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